BOOKS HIRO通信 第172号
(1)みなさまこんにちは
朝ドラ「ばけばけ」を観ていて小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)に興味をもち、小泉八雲著『日本の面影』を読んでみた。初めての日本の印象を繊細かつ的確に書き記したことに驚嘆。来日前に『古事記』(訳本)など読んでいたらしいが、見知らぬ異国へついたばかりでこのような記述ができるのは神業としか考えられない。この意味で小泉八雲は天才である。来日前に彼の師に当たる人が、初めてのことの印象はうつろいやすいのですぐに書けと言ったらしいが、ここに神業のヒントが有る。印象(面影)はすぐに消え失せる。それを忘れないうちに必死に書くような様子は朝ドラでも見ることができた。のちの『怪談』が皆に愛される作品となったのもこの神業によるのだろう。
昨日届いた本『ATTENTION IS DISCOVERY』(Anna Von Martens, The MIT Press)は一風変わった本だ。Anna Von Martensは、不世出かつ不遇の天文学者リーヴィットの特異とも言える仕事ぶりを語り、リーヴィットの使用した写真乾板に記録された無数の星の映像をもとに、キルトや鉛筆画などの芸術作品を作る。リーヴィットが行っていた繊細な分析作業とその手順を芸術家として読み解いて、作品を作るよすがとする。リーヴィットのことはここ15年程考え続けていたが、芸術作品制作の立場でリーヴィットの仕事を理解するというようなことは、少しも考えたことがなかった。毎日篤実に写真乾板の解析に立ち向かい、膨大な細かい作業のなかから学問的真理を掴みだすことは、芸術家が日々の仕事の繰り返しの中からきらめく作品を生み出すことと通じ合うものがある。
小泉八雲にせよ、Anna Von Martensにせよ、知らないものに触れることを恐れず、直接にぶつかっていく、自分なりの視点を大切にして理解しようとする彼らの姿勢に、学ぶべきところがある。
稀有な2冊に出会えた良い一週間だった。
(2)現在のBOOKS HIROの棚主ページです
SOLIDA
RIVE GAUCHE
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また来週。
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