BOOKS HIRO通信 第168号

棚主活動をテコとして読書生活が変わるまたは積極的終活の快楽
hiro 2025.10.04
誰でも

(1)みなさまこんにちは

PASSAGEの棚主として入居する時、最初に頭に思いうかべた入居理由は、若年から買い集めた三千冊前後ありそうな本を捨てるにしのびないのでこの機会に誰かに渡したいということだった。いわゆる終活。小さな家に住んでいる私のような高齢者には、切実な問題と思えた。この三年半で一割近くの本を本好きな方々に引き取っていただいた。そのかわり、引き取る本もあり、蔵書数は変わらないか、かすかに増えている。しばらく経って考え方を変えることにした。棚主としていや読者としての生活のありかたを積極的なものにする。たとえば……

棚主をやってみると、それまでより読書の幅が広がり、他の棚主さんたちとの交流で読書仲間が飛躍的に増えたのには驚いた。おかげ様で、読書生活が断然楽しくなった。同時に、読んだ本の記録・感想を書き記す頻度が増えた。途中経過をはしょるが、すこし前に読んだ『読書とは何か』の著者三中信宏氏のサイト(*)の影響を受けている。また残念ながら昨年亡くなられた松岡正剛の「千夜千冊」(**)の影響もある。これらに似た「自分で読んだ本の情報」サイトを構築したいという希望も持ち始めた。

高価なものではないが愛着はある蔵書をPASSAGEの書棚に入れる前には、なんらかの代替手段でその本が読み続けられないかチェックする。物理的な本は増やしたくないので主として電子的な手段を考える,電子書籍で手に入るか、さもなくば国会図書館デジタル・コレクションで読めないか調べる。だめなら、近所にある市立図書館がその本を架蔵しているかを調べる。こうしていると、ついでに目についた本も読むようになり、仮想的な蔵書が増えている。十倍増と言っても良さそうだ。

PASSAGEの棚主として実際に本を手ばなすという具体的行動をとった結果、期せずして新たな読書への展望がひらけたようだ。なにごとも良い方向で考えるという楽天的方針をとるかぎりは。思いつく展望をメモしてみた。

展望その一

自宅の物理的蔵書という枠を超越すると、広大な仮想書籍空間が手に入るのだ。ビル全館を占有する大書店や、国会図書館に泊まり込んで四六時中本の海に溺れるという天国の夢をみたことがあるが、実はその夢の天国は現実になっている。何しろ三千冊などと小さな事はいわず、数百万冊以上が即時に手に入る。夜中でももちろんOK。

展望その二

物理的な本の良さは認識しているが、目も悪くなり、重い本を持てば疲れる私には電子書籍は福音である。記憶力も衰えてきたので、物語の登場人物すら忘れる、その時、全文検索をかけるとすぐに思い出すことができる。参考文献を何冊も広げて調べものをするのもとても楽である。

展望その三

数十年本を読み続けていると、愛読書が何冊もできる。毎日思い立ったらすぐ目を通したい本も何冊もある。これらをすべて身近におくことが電子図書で可能になった。電車の中や病院の待合室、ホテルのベッドなどで愛読書を紐解くのは、楽しい。十年前に入手した電子版の『バビロンの流れのほとりにて』を精神安定剤として繰り返し読んでいるが、五十年前に手に入れた物理的な本の読み返し回数と頻度を、電子版の本が大きく越えた。好きな作家の全集を厳選して持っているが、多くは大きく、重い。持ち歩きできない。電子版の全集を持っていれば、出先の喫茶店などで空き時間に読みふけることが可能だ。もうすぐ辻邦生の電子版全集が出るがこれも手に入れるつもり。大部の『背教者ユリアヌス』『春の戴冠』をいつでもどこでも読めるというのは、20世紀には考えたこともない幸せだ。

展望その四

物理的な本の良さは、これらの本を読んだというあかしが身近かな書棚に目に見え手にすぐ取れるように、並ぶことだが、本の数が部屋の収納力を越えるとこれも難しくなる。電子書籍で蔵書を補完し、蔵書のリストを作っておけばこの難点を克服できる。

展望その五

ところで、自分がどんな本を読んでどんな事を考えたか、についての記録がたまっていくと、それをどう整理するかが問題になる。新たに他の本を読んで、それについて考えるときに既読の本の内容やそれについてどう考えたかを思い出すことは必須である。なるべく詳しく記録をとり、それらを検索できるような自分なりの仕掛けが重要となる。前述の三中信宏氏のサイトはそのヒント満載と思える。

これらを考えていると、単に本を読みながら老い込んで行ってはいけないとあらためて気づく。もっともっと積極的な読書を追求していきたい。しかもそれは好きなことを24時間思い切り追求するという喜びに満ちている。これこそ積極的かつ楽しい終活。遊行期の読書はまだまだ続く。

(2)現在の私の棚主ページです

SOLIDA

RIVE GAUCHE

***

また来週。

無料で「BOOKS HIRO通信」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら