BOOKS HIRO通信 第206号
(1)みなさまこんにちは
村上春樹の最新長篇作、『夏帆』を読んだ。入手後二日間で読み終えた。今までの長編たとえば『街とその不確かな壁』とくらべて、素早く読めたのは、長めの中編と言っても良いサイズで、シンプルな構成だからか。
主人公の画家・夏帆と母親とはそもそも不思議な関係にあった。夏帆は口の悪い(ほとんどハラスメント)男とブラインドデートした頃から非現実的なことに巻き込まれる。あるいは夏帆の空想が現実と入りまじる。南米のジャガーやありくいがあらわれて、夏帆はそれらと闘い、協力もする。白蟻の女王もあらわれ、母親にとりつく。後半、実は守護天使だったハラスメント男の助けを借りつつも、夏帆は主体的に白蟻の女王を倒す。
帯の惹句に、「女性を主人公にした初の長篇小説」とあったが、これはもちろん誇張した言い方で、村上ファンは『1Q84』の青豆の面子を潰していると怒るだろう。
「有名税」なのだろうが、村上春樹は女性を蔑視しているのではないかと言われてきた。『夏帆』はそれに対する一定の解答にもなっているようだ。現実と対立するのではなく、現実を包み込む巨大な空想の世界にあっては男女の差など些細なことに過ぎない・・・そもそも現実とはなにか。空想の世界は現実を包み込むように広い。
大きな悪や虚無と対抗するには男女の区別など小さなことだろうと村上春樹は言っているのこもしれない。
77歳(実は私と同年齢)になった村上春樹は、今までの長編の延長線の上で、よりシンプルな物語を綴った。シンプルさは老いのせい、いやたまものだろうが、読む側からすると楽である。作者にすると、体力にまかせて、力業で書くよりも楽なのか、は疑問だ。
読みやすかった作品だが、それは表面上のことで、実はこの作品の意味は私の今の理解を遠く超えたところに存在するだろう。すべての文学作品と同じく、作品を完全に理解するのは不可能である。作者はある意図を持って作品を書き始めるが、書いているうちに作品自体が作者の理解を超えて成長する。私は「理解する」ことよりも、作品を読むことによって自分の世界が勝手に広がっていくことを楽しみたい。その意味で、この作品は、喜びを与えてくれるものである。これは作品の「評価」などより、ずっと重要なことであると思っている。

ところで、カバーを剥がしてみて思った。ありくいのモデルは作者なのか?はて?
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また来週。
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