BOOKS HIRO通信 第207号

避暑中の読書はいつもの『魔の山』
hiro 2026.07.25
誰でも

(1)みなさまこんにちは

酷暑日という新しいコトバが今年生まれた。暑い夏は、架空避暑(*)にいく。「架空避暑のよいところは思い立ったら即刻、避暑地に行けるし、即刻自宅に戻れることである。」などと唱えて、ほぼ毎年今頃はどこかに「行く」ことにしている。今年もダヴォスへ。1500メートルの高地で、とにかく涼しい(と思う)。

(*)架空避暑については、以下を参照。
https://hfukuchi.blogspot.com/search?q=%E6%9E%B6%E7%A9%BA%E9%81%BF%E6%9A%91

ダヴォスのサナトリウムが舞台の『魔の山』を、夏によく読む。学生時代は実家で黄色の新潮社版世界文学全集で、トーマス・マン全集を買ってからはその第三巻で。避暑用の読み物なので最近は途中までしか読まないことが増えた。

今年は、寝床読書を心がけているので、Kindle版で読んだ。Kindleで読むことの利点で、スピードが上がり、数日ですべてを読み終えることができた。次はKindleで英語版とドイツ語版にも挑戦したい。全部読む必要はないし、辞書引きも楽そうだ。

『魔の山』のテーマは時間(の流れ)だと改めて思った。三週間の予定で軍人志望のいとこの見舞いにサナトリウムに行ったごく普通のブルジョア青年ハンス・カストルプは、サナトリウムでやはり胸の病を発見され、途中で快癒にむかうのだが、結局7年間も居座ることになる。この間いろいろな人に出会い、経験をし、少し大人になる。しかし居心地の良いサナトリウムを、第一次世界大戦への従軍をきっかけに離れる。軍人志望のいとこは亡くなっており、兵士になることなど夢にも思っていなかったハンスが、祖国のために銃をとり、戦火のなかに消えていく。大人になる。私にとって究極のビルドゥングス・ロマンでもある。

ごく普通の青年が、山の上で過ごす時間が変幻自在に伸縮する。夏の昼下がりに、セミのなく声を聞きながら読むのに最適の文章だ。トーマス・マンの絶妙な筆が、現実の時間と暑さを忘れさせる。

この高級サナトリウムでは横臥療法といって、豪華な食事時間以外には、病室のベランダの寝椅子に横になる時間が多い。この機会にハンス・カストルプは多くの本を読んでいる。文学書や歴史書だけでなく科学啓蒙書をたくさん読んでいる。この読書傾向はトーマス・マンのそれと似ているのだろう。

そもそも、寝ながら万巻の書を取り寄せて読むというのは、現在の私の読書方法に近い。

トーマス・マンはその夫人カーチャがダヴォスでサナトリウムに入院したとき、1912年5月から6月にかけて三週間見舞いに行っている。ハンス・カストルプはサナトリウムの院長に病気と診断されて、七年間留め置かれるのだが、トーマス・マンも同じようなことを実際の院長に言われて、地元(ミュンヘン?)の主治医に相談して、帰ってこいといわれて、下界に戻ることができた。カーチャもその後病から回復して、戻ってきた。この間の話をもとに、『魔の山』は執筆された。ここはカーチャの著書(*)に詳しい。国会図書館デジタルコレクションで(寝ていても)読める。

まだ、暑さは続く。次は『青い麦 』を光文社古典新訳文庫(解説は鹿島茂さん)で読んでみよう。ブルターニュでの架空避暑。もちろん冷房を効かせた部屋で寝ながら。

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