BOOKS HIRO通信 第210号
(1)みなさまこんばんは
PASSAGEで一日店長をなさった越前敏弥さんから直接、サイン本『インフェルノ』(角川文庫 2013年刊)を購入。その後の一週間は『インフェルノ』漬けとなる。最近バイト直後は毎回熱中症気味になるが、今回は『インフェルノ』の内容に熱中した。
ラングドン教授の今度の相手はゾブリストという生化学者で人類の増えすぎによる危機を、ウイルスによる強制的遺伝子改変で部分的不妊をもたらすことで解決しようとする。昔なじみの美しいWHOの事務局長と協力して、すでに死亡しているゾブリストの仕掛けたもくろみを阻止しようとする。
ダン・ブラウンのラングトン・シリーズの背景描写はいつも素晴らしいが、今回もフィレンツェやヴェニス、コンスタンティノープルなど、いったことがない街を上手に案内してくれる。もう一つの「背景」はダンテの『神曲』の地獄のイメージ。『神曲』を読んだだけではイメージしにくいので、たとえば、ボッティチェリの描いた〈地獄の見取り図〉を用いているのも見事。現実の世界の地獄的状況を際立たせる。
読書好きからみて、ダン・ブラウンの小説のすごいところが二つあると思う。
一つ目。ヨーロッパの思想の伝統に経緯を払うことを読者に求める。端的にはダンテの『神曲』を読みたくなる。現にいままで敬遠していた私も国会図書館デジタルで「地獄編」を読んでしまった。もう一つはジョルジョ・ヴァザーリの『芸術家列伝』。これも入手して読みつつある。
二つ目。現代的な科学の倫理性をテーマとしていること。今回のテーマは「ウイルスベクターによる遺伝子導入」や「遺伝子ドライブ(Gene Drive)と不妊化」であり、これは厳密な科学的根拠を持っている。しかし、これが倫理的に許されることかは議論が分かれるだろう。人口爆発というさしせまりつつある危機を回避する手段として、許されるだろうというのが小説版の結論だし、映画版ではその反対だ。この話題に関しても啓蒙書や論文などを集めて読みたくなる。怖いもの見たさ。
読書の醍醐味は、ある本を読むと、その内容に関する他の本・資料を多数読みたくなり、それらを入手して読むとまた別の本を読んで勉強したくなることだ。中毒性と言っても良い。
越前敏弥さんの流麗な訳文と、訳者あとがきを読むのがこよなく楽しい。でも怖い。
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