BOOKS HIRO通信 第159号

『シートン動物記 傑作選』(越前敏弥訳 角川文庫)は大人向け
hiro 2025.08.02
誰でも

(1)みなさまこんにちは

『シートン動物記 傑作選』をPASSAGEの「翻訳百景(越前敏弥)の本棚」で購入、すぐ読みました。

8つの作品が含まれていますが、どれもが素晴らしい。

冒頭の「ワーブ 灰色グマの一代記」は灰色グマワーブが主人公で、三人称のみで書かれた異色作です。全編、力強い非情な夕ッチで描かれており、シートンその人を思わせる灰色グマの孤高の姿に深い感銘を覚えます。シートンが意識的に用いた乾いた文体を訳文に反映させたのは越前敏弥の名人芸です。最後に、ワーブがみずから死をえらぶところは、鬼気迫る、それなのに心休まる描写が見られます。

「傷んだ胸に昔の勇気が突如湧きあがった。ワーブは体をひるがえし、谷間へ踏みこんでいった。恐ろしい空気が体に侵入し、大きな肺を満たして、たくましい四肢をしびれさせていく。ワーブは草のない岩だらけの地面に静かに横たわり、ゆっくりと眠りに就いた。はるか昔、グレーブル川のほとりで母の胸に抱かれて眠ったあの日のように。」

生涯の最後を乾いた悲しみをもって描くことは、動物の一生を描写する際には避けて通れません。

「オオカミ王ロボ」、「だく足の野生馬」、「アルノー ある伝書バトの物語」などで動物達はいわば「悲劇的」な死を迎えます。これらの結末は、児童文学としてみる時には、刺激的すぎるので、従来の訳者は、簡素な印象を与える訳文にしていたと、思われます。それで本当にシートンの言いたいことは読者に伝わるのか。越前敏弥は真正面からこの課題に取り組んだと思えます。

「だく足の野生馬」は、何よりも大切な自由を求めて、みずからの意思で崖からその身をおどらせる。「サンドヒルの雄ジカの足跡」のなかで、鹿を長い時間をかけて追い詰めた若い猟師ヤン(これはシートンの分身かと思います)は王者たる鹿の誇り高さに敬意をはらって、最終的には銃の引き金をひきません。

他の作品の主人公(動物たち)も、無意味な死を迎えることはなく、みな、愛するものを守るためや、自身の誇りや自由を守るために死を迎えます。そこに、シートンの言いたいことが隠されています。このように、全作品がシートンの思想を反映した大人向けのストーリーとして読めるのですが、越前敏弥訳はそれを見事に表現しきっています。

子供のとき「シートン動物記」を読んだ感動を、何倍かでまた味わうことができ、訳者への感謝でいっぱいです。できるなら、続編もぜひお願いしたいです。

(2)現在の私の棚主ページです

SOLIDA

RIVE GAUCHE

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また来週。

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