BOOKS HIRO 通信 第195号
(1)みなさまこんにちは
『空海の文字とことば』(岸田知子著 2015年 吉川弘文館発行)を読んだ。空海についての一般向けの本は何冊か読んだが、この本の特徴は書や文字やことばを学ぶという観点から空海像を描いたことだ。
たとえば、五筆和尚(ごひつわじょう)と空海が呼ばれていたこと。これは、長安の宮廷の壁に両手両足そして口に筆を咥えて空海が文字を書いたという伝説を生んだ。著者の岸田知子はこの本の3ページに以下のように解説している。
五筆とは、あそらく篆書・隷書・楷書・行書・草書の五書体をいうのであり。「兼ねる」とはすべてに巧みであったことを意味するのである。
つまり、「後進国」とみなされていた日本の若い留学僧が、文章のみならず書にも優れていると知り、唐の人々が驚き丁重に扱ったことを意味する。
空海は天才だったから労せずしてそのような名声を勝ち取ったかというとそうではない。たとえば、名著『書譜』について。
御物本の書風は空海と似ており、中田勇次郎氏は空海真跡と認めている(『書道全集』十一巻)。これが空海の書であるなら、空海が唐で孫過庭の『書譜』を通して中国の書論を学んだことになる。
(私が)苦手な平仄について。
空海の平仄は最適な状態にあるとはいえない。他にもほとんど配慮していないといえるところもある。ただ、『三教指帰』において改変された部分については、平仄を考えての改変と見られる箇所もある。推測を交えて言うと、入唐以前は平仄をほとんど配慮せず、唐にて学んだことを帰国後に反映させたということになるだろう。
文字について。
空海も文字には深い興味を抱いていた。異体字という普通とは違った字を書いたり、書体を変えた雑体書をくことが好きであった。(中略)文字への興味が、そのまま書にも向けられた。空海は多くの書を残しているが、当時の人としては特別に多い。高名な僧侶としてその書が格段のものとされただけでなく、書そのものの価値が高いのである。
真言密教体系を日本にもたらし、それを梃子にして国家経営にまで発展させた偉人の才能は、意外であるがとても地道な努力によってもたらされた。その努力を以下の引用のように、楽しみながら行っていたというのが、空海の素晴らしいところであると思った。
毎日が学びの連続であった空海にとって、しばしの愉しみとなっていたのが、筆作りと喫茶であったと思う。空海の筆作りは、日本の筆に大きな変化をもたらした。筆作りの職人との連携を大切にしている態度こそ、これ以後の文房具発展の基礎を作ったともいえよう。
最後にもうひとつ引用する。
空海最大の愉しみは教育であった。)
空海の偉大さを身近なところから分析して描いたこの本は、空海ファンにぜひおすすめしたい。著者が2015年に亡くなったのはとても残念だが、私は同じ著者の『空海と中国文化』という本も入手して読むつもりである。
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また来週。
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