BOOKS HIRO 通信 第192号

『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』(速水健朗著 集英社新書)の読後感
hiro 2026.03.28
誰でも

(1)みなさまこんにちは

『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』(速水健朗著 集英社新書)を読んだ。

スマートフォンをはじめて手にしたとき、マイナカードを作ろうとしたとき、そしてスーパーのセルフレジの前で感じる戸惑い。これらは自分だけの戸惑いではなく、誰でも感じる戸惑いなのだと思わせてくれる「優しい」本。

ところで、この場合の優しさとは、戸惑うことに同情することではなく、戸惑いの本質に一緒に立ち向かってくれることなのだろう。本の副題「機械音痴のテクノロジー史」を学ぶことにより。

この本ではたとえば、「長押し」や「ボタン」インターフェースなどが論じられている。

スマートフォン初心者が戸惑う原因の大きなひとつ、画面の「長押し」。長押しはもともとPCマウスの右クリックメニュ(コンテキストメニュ)に対応している。このコンテキスト、つまりスマートフォンの現在の使用状況によって、メニュの出方が変わるという概念は、PCを使っていない初心者に説明するのが難しい。(私も情報弱者だが、もっと弱者である配偶者に説明するときに苦い経験を積みつつある)

「ボタン」について。昔の単純な機械のボタンは押すだけの単純な仕掛けだった。一瞬だけボタンを押すことになれた人は、長押しすることを考えつかない。ましてや、PCやスマートフォンのボタンの長押しは、状況によって多様な結果を引き起こす。これを初心者が納得できるように説明するのは至難のわざだ。戸惑いをなくすには、「慣れる」ことが大切というしかない。

そして、皆が「慣れる」には、非常に長い時間がかかるだろう。それまでは、情報弱者が世の動きについていけず「切り捨て、分断」が発生する。

「人間のほうが機械に合わせるリスキリング社会、そしてばらばらになったユーザーインターフェース、省庁を分断して運用されるマイナンバー。こうした隙間を、つなぎ合わせるロールモデルのような役割が求められているのだ。そのような役割を担うものは、機械音痴から生まれてくるかもしれない。」と著者はあとがきを結んでいる。

おおいに同意できる。情報強者は一分野の情報強者でしかないので、分断を解決できない。情報弱者が自分たちの生活全般に根ざした形でみずから切り捨てや分断を「下から」解決していかなくてはならない。ここに民主主義の新しい側面をみることができるだろう。

最後に、私は著者よりふたまわり先に生まれており、情報弱者の悲哀をより痛切に感じる。そして、本質を見事についた著者の議論に感服した。この手の議論を今しっかりやって自ら行動をはじめないと、今よりもっと暮らしにくい、ディストピアがやってくるだろう。これは絶対に阻止しないといけない。

この本、情報弱者にも情報強者にもおすすめだ。

PASSAGE1号店での著者の書棚では、サイン本が売られている。私が一冊買ってしまったが。まだ在庫はありそう。在庫状況は以下で確認できる。


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また来週。

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