BOOKS HIRO 通信 第189号

なぜ読書は面白いかを『#空海の風景』を読んで考える
hiro 2026.03.07
誰でも

(1)みなさまこんにちは

ある勉強会の準備がきっかけとなって、司馬遼太郎の『空海の風景』を再読した。14,15,16章が前半のクライマックスで、若き空海は長安で密教のすべてを師である恵果から譲り受ける。 

16章から引用してみる。

般若三蔵が、日本の島々にも人類がいる、人類がいる限り、私の法は通用するのだ、そのためにゆきたい、というのは、普遍的思想というものに照らされた者以外に理解することができないに相違ない。若い空海は般若三蔵がもつそういう磁場の中にいて当然、磁気を帯びたであろう。ひるがえって想うと、空海と言う存在は、東海の島の国のながいその後の歴史において、地域的人間関係や地域的事情に拘束されることなく、人類そのものに直接通用するただひとりの思想的存在でありつづけているというふしぎさは、たとえば般若三蔵のような人物の精神に触れたことも、その小さくない成立理由のひとつかもしれない。

下巻7ページ

若い空海の気負いがここに現れている。

恵果の空海に対する厚遇は、異常と言うほかない。空海をひと目見ただけで、この若者にのみ両部をゆずることができると判断し、事実、大急ぎでそのことごとくを譲ってしまったのである。空海は日本にあって、どの師にもつかず、密教を独習した。恵果は空海を教えることがなかった。伝法の期間、口伝の必要なところは口伝を授け、印契その他動作が必要なところは、その所作を教えただけで、密教そのものの思想をいちいち教えたわけでなく、すべて空海が独学してきたものを追認しただけである。空海の独学が的外れなものでなかったことを、この一事が証明している。

下巻12ページ

空海と恵果は初対面だったが、瞬時にして共感が生まれたにちがいない。長年修行をした恵果と若い空海の橋渡しをしたのは、空海が日本で手に入るかぎりの典籍を読み、修行して得られた広大な知識であり、その知識を衆生のために活かそうとする強い意志だったのだろう。

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ところで、この『空海の風景』をいつ買って読んだか、ブログを検索して調べた。入社2年目、自分の給料で本が買えるので喜んでいた時代であったらしい。最近のブログに転記した1975年当時の手書き日記の記録によると

「1975年11月18日(火)『空海の風景 上』中央公論社 950円 三鷹第九書房1975年12月6日(土)『空海の風景 下』中央公論社 950円 三鷹三省堂書店」とある。

日記の引用のあとの2017年4月8日土曜日のブログにこのように書いた。

 「本棚から、司馬遼太郎の『空海の風景』を取り出して来た。著作中で一番好きと著者が言ったらしいが、私もこの本は大好きだ。入社したての窮屈な仕事の合い間に読んで、その自由な書きぶりの文章に憧れた。」

前後のブログを見ると、その当時ほぼ毎日いろいろな本を買って読んでいる。映画や音楽の鑑賞もしている。空海には及びもつかないが、百般の知識を頭に入れようともがいているのだ。

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ブログや本を読み返していると、私がどうして読書を面白がるかがわかってくる。 過去に読んだ他の本、訳者解説、教科書や百科事典などから得た前提知識と読んでいる本の内容がシンクロするつまり呼応するからだ。別の言い方をすると、自分の頭の中にたくわえられた知識を、うまく検索するためにピッタリするキーワードが読んでいる本のなかに含まれていると快感を覚えるようになっているからだ。

プルーストの「読書の日々」からの引用。

ここにこそ、じつに、美しい書物の持つ偉大な、すばらしい一つの性格があるのだ(そして、この性格によって、われわれの精神生活の中で、読書の演ずる、本質的であるとともに、限定された役割が、理解されるのである)。すなわち、著者にとって書物が「結論」と呼ばれうるものであるのに対し、読者にとっては、次のものへの「刺戟」になるということである。我々の叡智は、著者のそれの終わるところで始まる、ということがはっきり感ぜられる。われわれは著者に答えを与えて欲しいと思うのだが、実は、われわれに欲望を与えるということが著者のなしうるすべてなのである。著者は、彼の芸術の最後の努力によって達しえた至高の美を凝視させることによって、初めてその欲望を我々のうちに喚起することができる。(312ページ)

『世界文学大系』第52 (プルースト),筑摩書房,1960. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1335756 (参照 2026-03-06)

これからも本を読み、考え、面白がったときの感想をブログに書き続けたい。

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また来週。

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