BOOKS HIRO 通信 第190号
(1)みなさまこんにちは
高遠弘美先生の『パリ散歩 我もまたアルカディアにありき』がもうじき発売されるようです。法政大学出版局の告知ページはこちらです。
このページを見ると、2012年から2014年までのパリ滞在の記録のようです。内容の具体的記述はありません。愚考するに、たぶんソルボンヌでお好きなテーマを追求なさっていたのでしょう。それがなにかは読んでの楽しみということなのだと思います。
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読む楽しみを増すために自分の3回目のパリ滞在時のことをブログや写真ライブラリを参照して思い出してみました。私は定年直後の2010年秋、地震と津波の年の春、そして2012年の年末にパリに行きました。ゆっくりできたのは3回目で最後のパリ滞在のみです。
2012年の年末最終週に、私は息子のマレ地区のアパートに転がり込んでいました。息子は半年の語学留学中でした。掃除・炊飯が私の主な役割だったのですが、ときどき散歩に連れ出してもらいました。
どこに行くかはあらかじめ、森有正の『木々は光を浴びて』や辻邦生夫人・辻佐保子の回想記をもとにして頭に入れていました。彼らのパリでの最後の滞在先の住居を外から眺めることです。

グラン・ドグレ街はノートルダム寺院の対岸のセーヌ左岸にあります。森有正が住んでいたはず。建物の特定はかないませんでした。でも『木々は光を浴びて』によれば、この辺を歩いていたに相違ありません。ここからほど近い東洋語学校まで歩いて辿ってみました。森有正は日本語を教えていたはずです。
森有正 著『木々は光を浴びて』,筑摩書房,1972. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12539525 (参照 2026-03-13)からの引用。
今日は授業がない日だが、偶然学校に用事ができたので、それを果たしがてら町を歩いてみることにした。ノートル・ダムのそばのアパートからソルボンヌの教室までが二キロ位、語学校までもほぼ同じ位の距離がある。緩っくり歩いて二十五分ぐらいかかる。私はいつも歩いて学校に行く。(中略)私の住んでいるグラン・ドグレ街から一寸歩くと、広場から真すぐにフレデリック・ソートンと言う街路がだらだら北へ下ってきて、ノートル・ダムの真横の対岸のケーに出る。数年前に保存地区に指定されたこの通りは一せいに改築が始って、汚れた古い家が真白い小綺麗なアパートや店に変化していく。あと二、三年すれば、見違えるように美しい一角になるであろう。古い建物の様式をそのまま残した改築である。
つぎはムフタール街方面へ行ってみました。

辻邦生の旧居にはプレートが表示されています。おかげですぐ見つかりました。これは辻佐保子の回想記の記述の通りでした。この窓から辻邦生夫妻が街を眺めたのだろうと思うと感慨深い。

隣の建物(元ホテル)はヴェルレーヌが最期まで住んでいたし、若き日のヘミングウェイが日中仕事場にしていたようです。なんという素晴らしい場所に辻邦生は住んでいたのか。うらやましい。

ヘミングウェイが住んでいたアパートはすぐ裏のカルディナル・ルモワーヌ街でした。(『移動祝祭日』を参考にしました。)
ここからムフタール広場まで坂道を下って歩き、途中の食料品店でパンやオレンジなどを買って地下鉄でマレ地区のアパートまで戻りました。
辻邦生 著『夏の光満ちて : パリの時』,中央公論社,1982.4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12565575 (参照 2026-03-13)からの引用。
早速カルティエ・ラタンの家を見に行く。二十年前にオランダ人の友人の住んでいた由緒深いコントレスカルプ広場から二十歩ほどの曲りくねった狭い通りである。(中略)カルティエ・ラタンでもあの辺は一番パリ生活の思い出の濃い界隈だ。カンパーニュ・プルミエール街から日本語とドイツ語の交換課業をやるために何度も通った。ムフタール街などと言う古い有名な街があり、以前には貧民と泥棒たちの巣窟で、普通の人は近づけなかったなどと伝えられている。それが、ヘミングウェイが住んで、『日はまた昇る』や『移動祝祭日』の中に書いてから、急にアメリカの若者たちが集まるようになり、六十年代に入ると、パリでも有数の観光の中心になってしまった。
ルーブルには日参し、国立図書館(休みでした)の外観を眺め、シェイクスピア書店にも何回か顔を出し本を購入しました。観光客がたくさんいました。ともかくパリの中心ノートルダムにほど近いアパートだったので、気ままな見て歩きには便利。少し疲れたら、部屋に戻って休息がとれました。
さすがに色々な場所に行き過ぎ、疲れて「知恵熱」を出してしまいました。帰国の前々日は一日部屋で寝ていました。
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私の観光滞在は高遠弘美先生の「アルカディア滞在」にはほど遠いのですが、これを思い出すことにより『パリ散歩 我もまたアルカディアにありき』を読むのがとても楽しみになりました。今月末の発売のようです。PASSAGEにもサイン本を入荷なさるだろうと期待しています。
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また来週。
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