BOOKS HIRO通信 第134号

鈴木結生さんの『ゲーテはすべてを言った』(朝日新聞出版)は読者を楽しく遊ばせてくれる作品
hiro 2025.02.07
誰でも

(1)みなさまこんばんは

鴻巣友季子さんのPASSAGEの本棚から『ゲーテはすべてを言った』を一昨日購入しました。5時間ほどで読み終えました。一気読みに限りなく近いペースでした。

高名なゲーテ学者が偶然出会った、ゲーテのものというある箴言の出所を追求するというのが、全体の筋書きです。物語の中ではいろいろなテーマが取り上げられていました。

私のすきな部分を2箇所だけ引用してみます。(統一とは主人公の名前、學はその義父の名前で、どちらもドイツ文学の学者です。)

今となっては本が見つからない、と言う事は別段ないが、言葉が見つからないと言う事はまだあるのだ。いずれ、全世界のすべてのテクストが電子データ化されたら、そんなこともなくなってしまうのだろうか? Google Books 的アレクサンドリア図書館のことを統一は想像する。だが、そんな全てを網羅し、共有された(かのように見える)空間が出来上がったところで、人々がやる事は結局自分なりの全集を編むことでしかないのだろう(42ページ
聖書原典の写経。毎朝の日課は、年始だろうが、娘家族が来訪していようが、変わらず遂行される。(中略)しばらく、學は無言で集中し、一段落したところでペンを置いた。「やはりヘブライ語は難しいよ。僕は、ギリシャ語もヘブライ語も八十からの手習いだから」(115ページ)

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「端書」という名の序章の終りに、トーマス・マンの孫引きとしてゲーテの箴言が引用されています。これは作者が自分で原文から翻訳なさったらしい。「学者」の真似をしたい私は、この箴言の原文(と言っても日本語翻訳で)に当たってみました。

まず新潮社のトーマス・マン全集にあたりました。第9巻の講演集の中のゲーテに関する文章のどれかだろうと推測して、手持ちの全集本で探したがなかなかみつからない。言い回しがちがうのでしょう。同じ本を国会図書館デジタルコレクション(DC)で開いて、キーワードをいろいろ変えて全文検索をし、「作家としてのゲーテの経歴」という文章のなかで、トーマス・マンによるゲーテの箴言からの引用をみつけました。(全集第9巻の266ページ下段から267ページの上段にかけてがそれにあたります。)

気分を良くして、つぎはゲーテ全集の中で「原文」を探してみました。

ゲーテ全集の紙の本はもってないので、直接国会図書館DCへ行きました。『ゲーテ全集 第11巻』に「ゲーテ格言集」があるので、これをざっと見たがどこにあるかはよくわかりませんでした。気分を変えて、やはり国会図書館DCにある、大山定一訳の単行本『神・自然・芸術・人生:ゲーテのことば』(ゲーテ全集 の「ゲーテ格言集」と内容は同じだが)の中を探しました。全文検索し、キーワード「努力」と「理性」の組み合わせでやっと発見できました。ゲーテ全集第11巻の129ページ(第69コマ)にあります。

問題の箴言は、大山定一訳だと

自分が感じたもので、自分が見たもので、自分が考えたもので、経験したもので、想像したもので、理性で判断したもので、――できる限り「言葉」を直接に、言葉そのものに直面して、いきいきと理解しなければならぬ。これがわたしたちの、日ごとに課せられた、回避できない、厳粛な義務である。

となっています。私としてはこの訳が好きです。苦労して「発見」したからかもしれません。

***

ともあれ、年寄りの読者でもこのような知的小冒険ができるような仕掛けが潜ませてある、この作品は大好きになりそうです。

ほかにもいろいろな仕掛けがありそうなので、それらを探して、もっと楽しめそうです。トーマス・マンや、ゲーテの原文にもあたってみたい。ドイツ語は不得意ですが、インターネット上で楽しみながらできそうてす。

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