BOOKS HIRO通信 179号

ポール・オースター『バウムガートナー』を読んだ、他人事ではない記述満載
hiro 2025.12.27
誰でも

(1)みなさまこんにちは

柴田元幸さんの訳者あとがきによると、『バウムガートナー』(の原書)は2023年11月に刊行され、2024年4月30日に著者ポール・オースターは77歳で亡くなった。この訳書の新潮社からの刊行日は2025年12月15日。

ポール・オースターの本はほぼすべて読んでいる。もちろんほぼすべて柴田元幸さん訳で。柴田元幸さんはPASSAGEの棚主であり、「月刊ALL REVIEWS」でもお目にかかったことがある、親しくお話したことはないが。

ポール・オースターの晩年の日常を題材にしたと思える『バウムガートナー』。著者の分身と思える老いた主人公の言動が、感慨深くて、毎日少しずつ読んだ。

冒頭シーンで、火を消し忘れたガスコンロ上の鍋を不用意につかんで軽い火傷をおった老いた主人公は、おまけに地下室の階段で転び、肘と膝を怪我する。幸い大事にはいたらず執筆生活に戻る。水の事故で亡くなったはずの詩人だった妻アンナとの不思議な交流を電話で果たす。村上春樹を少し思わせる描写。

主人公のおいぼれた言動は笑えない。笑えないどころかほぼ(ポール・オースターと)同年代の私には身にしみるようによく理解できてしまう。このため読みすすめるのが怖くなった。ラストシーンに近づくにつれ、最終的な破局が訪れるのかともっと怖くなる。幸い、他のポール・オースター作品と同様に、余韻を残す終りかたで書いてくれたため、ほっと胸をなでおろした。

ラストシーン近くで、老主人公は遠方の学生から連絡を受ける。亡くなった妻アンナの未公刊の原稿を整理しながら読ませて欲しい、学位論文を書くためであるとのこと。実は、それらの原稿の整理をしたくても老いのためになかなかできない主人公は喜んで申し出を受け込れる。辺鄙な場所に住んでいるため、離れを宿として借しても良いと伝える。離れを近所の知人の助けを借りて整理し、学生の来訪を待ちかまえる。冬期なのに車を一人で遠距離運転して来るという学生に危ないからよせと電話で言い、結局言いまかされてしまうが、心配でいても立ってもいられない。このあたりも老人の習性をまことに見事に活写している。

ふたたび柴田元幸さんの後書きを見ると、ポール・オースターの未訳本が2冊ある。『BurningBoy』(2021)と『Bloodbath Nation』(2023)。はやく読みたい。柴田さん翻訳よろしくお願いします。そして実際の妻シリ・ハスベットの『Ghost Stories』も本作品の対応作だそうで、ぜひとも読みたい。大げさに言えばそれまで私も生きのびたい。

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また来週。

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