BOOKS HIRO通信 第185号

アンディ・ウィアー(『プロジェクトヘイルメアリー』著者)は第二のクラークか
hiro 2026.02.07
誰でも

(1)みなさまこんにちは

1月22日から2月6日までに、アンディ・ウィアー著・小野田和子訳・ハヤカワ文庫の三作品を『プロジェクトヘイルメアリー』、『火星の人』、『アルテミス』の順で読み終えた。

三作品を出版の順にならべると『火星の人』、『アルテミス』、『プロジェクトヘイルメアリー』となる。物語の舞台はそれぞれ「火星」、「月」、「系外惑星」。SF、つまり、科学的な発想で書かれたフィクションなのだが、語り口そのものが堅実な科学的性格を帯びているのが特徴だと思った。仮説と検証を論理的客観的に繰り返し、組み立てるのが科学と思っているのだが、この三作品では基礎的な日本の高校レベルの科学知識を用いて書かれている。私は、自分の科学知識を参考にしながら、物語の展開を追うことができて、読んでいると不思議な快感を覚えた。これは昔読んだアーサー・C・クラークの作品を読んだときの快感に似ている。

根底には疑似科学的フィクション(証明されていない仮説)が含まれているのだが、そこは不自然さをできるだけ抑えている。通常のストーリーの部分の仮説・検証は読者がほぼ納得できるように工夫して書かれているので、読みやすい。

アーサー・C・クラークの作品の一つを引用してみる。私が以前読んでしびれたところのひとつだ。

「宇宙空間では、こんな小さい圧力でも、重要なことになる。それは、少しの休みもなく、いつ何時でも、来る日も来る日も、働き続けるからだ。ロケット燃料とは違って、これはただで、しかも無尽蔵なんだ。我々は、その気になれば、これを利用することができる。太陽から吹き出す輻射を捉えられるような帆を作ることはできるのだ。(中略)もちろん、加速度は微小なものだ。ーー約 一千分の一Gしかない。これは大したことはないように思える。だが、どんなことになるか、見てみよう。最初の一秒間にどうなるかと言うと、我々は五分の一インチ動くことになる。多分、健康なカタツムリなら、もっと動けるだろう。だが、一分後には、我々は六十フィート動いており、時速一マイルちょっとになっているだろう。純粋に太陽光線だけで動いているにしては、これは悪くない成績だ。一時間後には、出発点から四十マイルにあり、時速八十マイルで動いている。宇宙空間には摩擦がないことを忘れないでもらいたい。だから、一旦何かが動き出せば、それは永久に動き続けることになる。一日走り続けた後で、我々の一千分の一Gヨットがどうなるかをいったら、諸君はきっとびっくりするだろう。時速二千マイル近くになるのだ! もし軌道から出発するとすれば、ーーもちろん、そうならざるを得ないのだがーーヨットは数日で脱出速度に到達できることになる。しかも、一滴の燃料も消費しないでだ!」

アーサー・C・クラーク『太陽からの風』(1978年 ハヤカワ文庫)78ページ

題材の選び方や、科学的なステップを大切にする作風に共通点がある。多分、アンディ・ウィアーはクラークの作品をすべて読んでいるのだろう。キャラクターの性格はアンディ・ウィアーのほうが現代的で親しみを持ちやすい。これは小野田和子の訳文の長所というべきかもしれないし、米国と英国(クラーク)のお国柄かもしれない。時代の差もある。

『火星の人』の文庫版解説を読むと、この作品はもともとプログラマーであった作者が余暇を利用して自分のWebページに連載したもので、誰でも読むことができた。読者の要請で、まとめてKindleで出版、価格は99セントであったという。それがあまりにも好評だったので出版社や映画会社が高額の契約金で出版権・映画化権を獲得したらしい。作品の親しみやすさはこのような、読者を大切にする執筆態度から来るのだろう。今、PASSAGEやSOLIDAやRIVE GAUCHEの書棚で起きているZINEのブームと考え合わせると面白い状況が現出していると思う。

1972年生まれのアンディ・ウィアーは今54歳、もっともっと作品を書き続けてほしい。

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また来週。

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