BOOKS HIRO通信 第107号

いまでも読者をひきつける1969年芥川賞受賞作『赤頭巾ちゃん気をつけて』
hiro 2024.07.26
誰でも

(1)みなさまこんばんは

庄司薫さんは私の一回り上の丑年生まれです。『赤頭巾ちゃん気をつけて』は『中央公論』1969年5月号に掲載されて、その7月に、第61回芥川賞を受賞しました。その年の夏休みに同作の掲載された「文藝春秋」誌を、夕食を食べる時間を惜しんで家族のいる食卓で読んでいたので、母親に叱られたのを思い出します。

好きだった庄司薫さんの小説(結局「薫くんシリーズ」4部作のみ、他に福田章二名義の『喪失』があったが……)ですが、『ぼくの大好きな青髭』を最後にして、まったく世に出なくなったのには困りました。待っているうちにもう50年近く経ってしまいました。なぜ庄司薫さんは小説を書かないのか……今でもときどき考えています。サリンジャーのようにひたすら書いてはいたが、発表しなかったのか?

彼のエッセイ集『狼なんかこわくない』や、『赤頭巾ちゃん気をつけて』の本文やあとがきなどを見るとどうもそうではないようです。彼は「小説を書く」ということよりも、プライオリティの高いことを追求しているようなのです。それがなにかは、推測するしかありません。

何年かたつと、推測すること自体がだんだん面白くなってきました。「さまよえる現代の若者……」(『赤頭巾ちゃん気をつけて』初版本〈中央公論社〉の帯文より)は、何をやっているのか。政治・経済分野のことなのか。ともかく平たく言うと「みんなを幸福にするにはどうすればよいか」(上記本の一節)を追求しておられるのでしょう。

ときどき、この推測に広い意味で役立つことは書いていないかという視点で本を探したり、読んだりすることがあります。きょうは『思想のドラマトゥルギー』(林達夫・久野収 〈平凡社〉)という本を、ホコリを払って取り出してきて読み始めたのですが、その3ページに「今では、一生舞台稽古で精力と時間とを使い果たした男、と墓碑銘に書いてもらってもいいと僕(筆者注、林達夫)は思っています。」とあるのを見つけました。「語学」などもその舞台稽古のひとつなのだそうです。なるほどです。

まさか、庄司薫さんは「舞台稽古」をしているのではないとは思いますが。私自身は林達夫とはレベルが違う(つまり低すぎる)舞台稽古をやっているのかもしれません。でも確かに「舞台稽古」にも大きな意味と、楽しさがあるような気もしています。明日も本を探し、読む生活は続きます。

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上で言及した本のうち3冊はPASSAGEで売られています。詳しくはそれぞれの棚主ページをご覧ください。

『赤頭巾ちゃん気をつけて』

『ぼくの大好きな青髭』(私の棚です、すみません)

『思想のドラマトゥルギー』

(2)現在の私の棚主ページです

来週の私のバイトスタッフ勤務は日曜日、月曜日です。

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