BOOKS HIRO通信 第135号

PASSAGE、大和路・信濃路、神保町
hiro 2025.02.14
誰でも

(1)みなさまこんばんは

4月19日から、webマガジン「ほんのひととき」編集部(PASSAGEの書棚「ほんのひととき」の棚主さん)と、PASSAGE&SOLIDAが「旅の本フェア」を展開するというお知らせメールが届きました。これにBOOKS HIRO棚主として参加するために「旅」にちなんだ本を選ぶことになりました。少し考えて、堀辰雄のロングセラー・エッセイ集『大和路・信濃路』にすることにしました。単なる旅の記録ではなく作家堀辰雄の創作への精神の旅の記録でもあるからです。

『大和路・信濃路』の新潮文庫版を購入して読み始めたのは、奥付の日付を参考にすると昭和50年のことでした。堀辰雄が新境地となるであろう万葉時代を舞台とした小説の構想・執筆のため主に奈良ホテルに滞在したときに、多恵子夫人に書き送った手紙が「大和路」部分の手紙体の記述となったらしいです。これは堀多恵子編の『堀辰雄 妻への手紙』のあとがきを読むとわかります。、構想を練りながら、取材をかねて病を押して古寺などを歩き回る堀辰雄の姿は感動的です。唐招提寺、海龍王寺、奈良博物館、秋篠寺、東大寺、法隆寺、中宮寺などを昭和16年10月に訪れています。結局20日ほど頑張ったが、望んでいた小説の目処はたたず、そのかわり今昔物語からヒントを得た「曠野」の構想を得て、一度多恵子夫人のもとに戻り「曠野」を完成させます。

12月にはまた奈良を訪れて、大和路を歩き回り再び古代の小説の構想を得ようとしながら、倉敷に足をのばしてエル・グレコの『受胎告知』を見に行ったりもします。その後、昭和18年には多恵子夫人を伴い(一人では心もとないと多恵子夫人が同行したようです)、木曽路を経てまた大和路へ。浄瑠璃寺や室生寺を訪れ、いったん帰京後に京都に行き嵯峨野、大徳寺、聖林寺を夫人と訪れます。

印象的な記述を一箇所だけ抜き出します。「大和路」の冒頭に近い部分。唐招提寺の門扉に夕日があたっているのを見ているところです。

……この寺の講堂の片隅に埃だらけになって二つ三つころがっている仏頭みたいに、自分も首から上だけになったまま、古代の日々を夢みていたくなる。……もう小一時間ばかりも松林のなかに寝そべって、そんなはかないことを考えていたが、僕は急に立ちあがり、金堂の石壇の上に登って、扉の一つに近づいた。西日が丁度その古い扉の上にあたっている。そしてそこには殆ど色の褪めてしまった何かの花の大きな文様が五つ六つばかり妙にくっきりと浮かび出ている。……そのうちそこの扉にさしていた日のかげがすうと立ち去った。それと一しょに、いままで鮮やかに見えていたそのいくつかの花文も目のまえで急にぼんやりと見えにくくなってしまった。

このとき、堀辰雄はたしかに今後書くべき小説の手がかりを掴んだのでしょう。しかし、その後の彼の健康はその小説の執筆を許しませんでした。

現実の話に戻ります。感激性の私は、こともあろうに昭和52年(たしか)の新婚旅行に奈良・京都・倉敷を巡ることにしました。上記の仏閣や博物館・美術館にすべて行きました。妻には呆れられました。

『大和路・信濃路』については、ずっと文庫本を愛読していましたが、PASSAGEに書棚を出した直後神保町の澤口書店さんで買った筑摩書房版の『堀辰雄全集』のなかの「大和路・信濃路」も読みました。各エッセイの初出などもわかり少し偉くなったような気がしました。その直後、同じ棚主仲間の「Big-books」さんから、昭和29年人文書院刊行の『大和路・信濃路』を譲っていただきこれも精読。装幀が恩地孝四郎、写真が入江泰吉、跋を神西清が担当する豪華本です。ページを捲っているだけでも楽しくなります。そのしばらくあとにこれもPASSAGEの棚主の「しゃれこうべ読書部」さんの棚からお迎えした『新潮日本文学アルバム 堀辰雄』も読みました。巻末の年譜を見ると上記の年代がわかりやすかったです。

確かに『大和路・信濃路』という本を通じ、時空を超えて私は堀辰雄と旅しています。

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日曜日、SOLIDA、月曜日がPASSAGE、水曜日がRIVE GAUCHEでバイトスタッフ勤務です。

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